東北沢の歯科医院

2022年 / 東京都渋谷区

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計画地:東京都渋谷区
用途:歯科医院
構造:鉄骨造(既存)
施工:建創
竣工:2022年

 

東京都渋谷区の住宅街にある歯科医院の改修である。

クライアントは3世代にわたりこの地域で歯科医院を営んでおり、将来的な世代交代を見据えて老朽化した院内を改修しリニューアルオープンをしたいという要望であった。

我々はクライアントが長年歯科医院を続けられてきた蓄積による独自の使い勝手や価値観があることから、一般的な歯科医院の計画学や構成から考えることは最適ではないと判断し、現状のオペレーションやそれを成立させる物の並びや場所の連続性などを細かくヒアリングし、一日を通じて歯科医と来院患者がどう動き、どう過ごすのかを設計の軸とし検討した。

完全予約制の歯科医院であることから待合スペースは必要最低限の大きさにまで縮小し、動線空間も最小限に抑えることで、患者が最も長く滞在し快適性が求められる診察空間を拡充し、また要望である診察台数を3→4台とした。(カウンセリングルームは設備配管を床下に仕込み、将来的に診察空間となる。)

通常、歯科医院の診察空間は完全個室、または診察室を画一的なパーテーションで分割していくものが多いが、クライアントは医院のありかたとしてそのどちらとも違う状況を求めていたことから、我々はワンルームの診察空間をあるひとつの環境のようなものと捉え、その中を要所で視線を遮る靄がかかるかのような軽快で微かな囲いが歯科医院の各場所と全体形を同時に生み出していくような状況を提案した。

具体的には片面が波板加工され特殊な視覚効果が生じる4mm厚のアクリル板を湾曲させることで、複数の診察空間を生み出すように配置した。また場所の関係性や、視線の高さなど考慮しながら適宜アクリル板の高さをコントロールし、表面積を必要最小限とした。アクリル板の曲げ加工については曲げ型枠の数を2種類に留め、製作コストを削減しつつ、その組み合わせによって多様な空間をつくり出すよう考慮した。

診察台の直上にはアイキャッチになるような大型照明傘を設け、身体を包むような柔らかな形状とし、診察空間を閉じ切らずとも患者がパーソナルスペースを感じられるようなものとした。

総じて今回の計画では、直接的な建築要素ではない、パーテーションや大型照明傘、その他の家具や医療機器なども含めたモノの構成やコンポジションの総体が歯科医院を機能させつつ、そのモノの形態や様相に身体が応答し、場所の快適性というものを生み出すことを目指した。